射手座満月『改めまして』

今、雲のかかった空を見上げるようにして、書いています。

田舎で、幸運なことに今夜の満月が上がってくる方角がよく見えます。が、この雲では肉眼で月蝕を見ることは叶わないようです。

とはいえ、エネルギーはそのまま降り注いでいるでしょうから。

射手座に座する月は、私の出生図にもおりまして、今は自分のことだけを考えています。そもそもこの文章は、誰かに見られるために書いているのでしょうか。それも私には分かりかねます。ブログに載せたとしても、そのブログは独り言なので。

私は決して、この感染症禍がなくとも、人と会う頻度は変わらなかったでしょう。誘われたら出かけるというフットワークの軽さは、洛中で暮らしていたからこそのもの。今のこの京からとおく離れた暮らしでは、再現ができませんから。

人が嫌いなわけでは決してありません。ただ、寂しがりやで孤独が恐ろしいくせに、自分自身のことををじっくり聴かれることは、得意ではありません。でも1人はいやなので、人のいる場所にいたがります。

呼ばれれば迷わず馳せ参じたのは、私の存在を「忘れられたくない」から。

思い出してくれたことが、嬉しいから。

それに、私はお喋りが好きなのだと自覚していたのですが、聞いてほしいのではなく、垂れ流しになっている私のアウトプットは、別に耳に入れなくとも良いのです。だから、身を乗り出して話を聞かれてしまうと、辛いのです。

多分、「アラ」が出た時や「失敗」をした場合に備えて、集中していて欲しく無いのです。

「ほっといてよ」と言いたい時さえあるのですが、1人は嫌なのです。

ほっといてほしいくせに、ひとりにしないでほしいのです。

なんて矛盾なんだろう。

私は何がしたいのだろう。

だから、今は時々その「アラ」や「失敗」をみても、何とも思わないでただ傍にいてくれた人が恋しくて仕方がありません。"その人"が恋しいというよりは"そういう存在"が恋しくて、たまらないのです。

＊＊＊

星をみたり読み解いたり、過去世のストーリーをきいたり、本を読んで得る精神世界や宇宙のはなし。何が楽しくて生きているのか聞かれれば、答えに詰まるのは、私の楽しみが、こうした所謂「妄想のせかい」に想いを馳せることだから。

たとえば、かつての魂はレムリアの時代に生き、アポロン神の御加護をうけている。とか。異国から逃れるために訪れた琉球の小さな島で過ごした記憶だとか。かつての衣装を纏うと溢れてくる郷愁の感情だとか。

大切な人から告げられた別れの、ほんとうの理由だとか。

白昼夢のような、うわごとのような。多くの人には「戯言」「妄言」でしかないようなことが、私には確かに真実のように感じるフィルターを持っているのです。

このフィルターがふんわりと、普段のくらしの上にかかれば、私にはアリスの夢の中と同じようなものなのです。ただ、さみしいことにこのフィルターそのものは、確かに誰かと共有しているのに、完全に一致する他は存在しない。

一部なら、一瞬なら、持ち合わせる人が存在している。もしくは、興味を抱いてくれる人がいる。

でも本当は、すべての人が同じように、世界を独自のフィルターを透かしてでしか、見えていないはずなのです。

私にはそのフィルターが、何重にも重なって、ただ重ねただけではなく、レイヤーのように「覆い焼き」とか、ちょっと特殊な加工までされている。

異色のフィルターを集めて、重ね続けることが、私の生命をふるわせる。

＊＊＊

だからでしょうか。

私は自分にしかみえていないその世界の色を、出来事を、物質を、言葉にして伝えることを恐れています。

だから、「私の話を真剣に聴かないで」と、怯えている。本当は、楽しい世界だという自負があるのに。

これもまた、魂を遡れば見えてくる経験があるのかもしれません。

誰かに、自分の何かを話したときにできた傷が。

いえ、その傷は、魂の過去でしょうか、「私」の過去でしょうか。

どちらでもいいのです。誰に、などもどうでもよいのです。

ただ、私はきっと、自分の見ている世界を嘲笑されたり、私の好きなものを、くだらないと言われたことに、耐えられなかった。

でも、もうこのことは、もう終いといたしましょう。

そういう「恐怖」が私にはあった。

でも、それは持たなくて良いのだと私は知っています。

「知っている」から、それだけで大丈夫。

今夜のこの、強すぎる満月には、このくらいの傷の浄化はきっと朝飯前でしょう。

フィルターは、不可視化するだけでなく、削除しないとプロジェクトファイルが重くなってしまう。

いったん、不可視化して、消すのを忘れていたレイヤーが、溜まると重たいから。気づいたら消さないと。

何冊か手にしたところで、次に手に取ったものを掴みきれずに、足元へばさりと広がってしまった。拾い上げると、そこには過去の様々が綴られている。どうやら、いまと対になるころのこと。

　あのときと、いまと、何が違うのだろうかと、一点を見つめて停止する。私はあの日夢見た姿だろうか。あの日でさえ描けていなかった未来の姿は、これなのだろうかと。

　ひろいテーブルの上に広げて、もう一度見渡してみる。愛おしい時の砂が積み上げてきてくれた、その物語を。物語は決して単なる娯楽ではないのだ。常にみる人々が、その人にしか得ることのできない何かを孕んでいる。

　ではこの物語は何を象徴するのか。

　広がるそれを綴った糸を解いて、浸したり、透かしたり、擦ったり。不意に差し込んだ赤銅色の光が、手にしていた一節を変色させてしまう。すると別のなにかが浮かび上がる。ほかの頁はどうやらすっかり文字が消えてしまった。

　それを目にした表情は曇ってなどいない。いたずらっぽいその笑顔が、好奇心を抑え込めない指先が、ペンをとる。

　さて、どう進めるか。

Photo by Marina Reich on Unsplash