ながい髪
わたしの髪は、恋をするとどんどん伸びる。 恋をしていないときは、そんなに伸びない。 きっと他のみんなとおなじくらい。 「なんか、随分伸びたね」 そう言われて鏡を見ると、たしかに以前より随分伸びている。 そういうとき、わたしは恋をしている。 髪を切ると、あれ?失恋したの?と茶化すおじさんがいる。 「今時そのいじり方、どうなの」 あの子はそう言って、水滴がつき始めたグラスをぐいっと傾けている。 失恋しなくても、みんなは髪を切る。 でもわたしは時々、全部忘れたくて髪を切り落としてしまう。 だってわたしの髪は、相手への想いでいっぱいになって、どんどん伸びているから。 それは時々、扱いきれなくなる。 それは時々、重たくなる。 それは時々、相手を縛り付ける。 忘れなくちゃいけなくなったら、わたしは髪を切り落とす。 みんな褒めてくれる。 ながい髪のときも、とても綺麗ねとみんな褒めてくれるけれど、 短くなると 「そっちのほうがいいね」 と意外な人が声をかけてくれる。 もう、しばらくは短い方がラクだなぁと思うのだけれど、 いつのまにか、また長い方がいいなと思っている。 そういうとき、わたしは恋をしている。