目標は疑似体験できたら達成



「頭打ちだな」

通勤電車の中で、ぼぉっと向かいの窓の外にある闇を見ながらそう思った。

こういう時の私の目は死んだ魚みたいに光が入っていない。


勤め先では、毎年上長との面談がある。次年度の目標だったり現在の問題について話す。そこでの会話や普段の行いから、次年度の昇給の有無が変わる。

どうせ次年度の昇給はないだろう。

どうあがいても、人を集めることこそが本髄になる商売は、次年度の売り上げだって見込めない。それこそ、東京オリンピックが気持ちよく行われる並行世界にてはじめて、見込めそうなものだ。

クビにならなかっただけ、出勤減らされなかっただけ、ありがたい。

時給で働く非正規雇用は、昨年のあの空気は一瞬ひやっとした。

それでも態度としては、今もらっているお給料の分だけ、努力していないとなと考えるくらいには生真面目なので、上長と次のステップについて話し合う。

気がついたら、何年もここで働いている。社内外問わず、自分の立場が確立してきて、自分のフィールドを持っている。


現場でのポジションは、もうひとつしか残っていない。

後輩に”先を越され”たとしても、そのポジションは嫌だと言い続けていたものだ。

そのポジションにならないまま、今の立ち位置を築いているのは、社内では異質かもしれない。

「人も足りないし、そろそろもうやってもらうしかないよ…」

基本的に、上長はやさしい。適材適所だし、そのポジション以外はなんでもこなして、他のところで成績も上げてきたから、これまでは大目に見てきてくれたけれど、流石にそうも言っていられなくなってきた。

「そうっすねぇ、腹ぁくくります」

そう答えて、次の話題へ。


自分の性質として、上り詰めた姿が見えてしまうと、見えた時点で興味を失う。

上達する前に、上達した場合のビジョンが見えたら、もう興味が失せて、達成する前であってもやめてしまう。

今回もそんなとこで、おそらく嫌で嫌で仕方ないポジションを、出来るようになったら、あとはもう社員になるしかない。

社員になりたいと思ったこともないし、思えないので、それはありえない。

じゃあ、次はどこに行こうかな。

もう仕事に行くのがワクワクしなくなった。

自分が婚約破棄になったその週末だって、お客様の結婚式で喜んで、泣いたのに。

ワクワクする「仕事」は、感染症渦ではできない。

いよいよ、場所を移る時が来たってことだろうかと、考えてしまう。

でもちょっと、最近は

きっとこのまま「新しい生活様式」じゃないけれど

たとえワクチンが世界中でしっかりと馴染んで、マスクをしないで過ごせる日が来たとしても、昔のような「プロポーズされたらZクシィ!」の世界じゃなくなる。

そうなった世界で、この業界で、私はどんな仕事をするんだろう。

そうおもったら、昨日まで登っていた山は消え去って

ピラミッドの入口が現れた…かもしれない。


Photo by Andre Benz on Unsplash

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